鼻アレルギー情報
皮膚アレルギー情報
気管支喘息情報
(成人・小児)
目のアレルギー情報
食物アレルギー情報
アレルギーの治療に役立つ情報
アレルギー講演会
記録集
患者会紹介&情報
リンク集
(公的機関・施設)
アレルギー講演会記録集 < 記録集一覧に戻る >

第7回:アレルギー講演会

アレルギーの克服に向けて
花粉アレルギーを考える
―花粉アレルギーの解明と予防、治療―


総合司会 宮本昭正氏((財)日本アレルギー協会理事長)
挨   拶 奥田 稔氏((財)日本アレルギー協会会長)
基調講演1 遠藤朝彦氏(東京慈恵会医科大学耳鼻科講師)
基調講演2 佐橋紀男氏(東邦大学薬学部生物学教室教授)
パネルディスカッション
  司   会 伊藤幸治氏((財)日本アレルギー協会関東支部長/同愛記念病院特別顧問)
  内   科 前田裕二氏(国立相模原病院アレルギー・呼吸器科医長)
  小 児 科 勝沼俊雄氏(国立小児病院アレルギー科)
  皮 膚 科 遠藤朝彦氏(東京慈恵会医科大学耳鼻科講師)
  眼   科 高村悦子氏(東京女子医科大学医学部眼科助教授)
  植物分類・形態学 佐橋紀男氏(東邦大学薬学部生物学教室教授)

 アレルギーと正しく向き合い、かかりつけ医と二人三脚でアレルギー性疾患を克服しようと、第7回アレルギー講演会(主催:(財)日本アレルギー協会関東支部/(財)日本アレルギー協会、共催:アレルギー情報センター/アベンティスファーマ(株)、後援:厚生労働省、(社)日本医師会、日本アレルギー学会)が2月17日、東京ヤクルト・ホールで開催された。IgEの発見を記念し発足した、アレルギー週間の全国啓蒙活動の一環として、今年は「アレルギーの克服に向けて、花粉アレルギーを考える」を主題に、6つの講演と質疑応答が行われた。

 


  奥田稔・(財)日本アレルギー協会会長の挨拶、各科のアレルギー臨床のエキスパートによる講演に続いて、パネルディスカッション「花粉症を含むアレルギー疾患について〜患者さんからの質問に答えて〜」に移り、約500人の参加者との間で熱のこもった質疑が交わされた。その要旨を紹介する。

日本アレルギー協会会長
奥田 稔 氏
日本アレルギー教会理事長
宮本昭正 氏

●基調講演1:花粉アレルギーのメカニズム、症状、疫学、治療法を探る

東京慈恵会医科大学耳鼻科講師
遠藤 朝彦 氏

 

 

 

 花粉症とは、植物の花粉(雄性細胞)が原因で起こるアレルギー性疾患をいう。発症原因となる花粉で最も頻度が高いスギ花粉は、直径30〜40μmで、細胞表面にオービクル(2μm程度の小粒子)とパピラ(突起)が存在するが、パピラはヒノキ花粉には存在せず、両者を識別するポイントとなっている。花粉粒子のサイズなら、気管・気管支には吸入されないが、オービクルは吸入される。
 アレルギー反応は、アレルギー素因を持つ人の体内に抗原が侵入して抗体を産生し、抗体が肥満細胞(マストセル)表面の受容体と結合したところへ改めて抗原が入ってきたとき、肥満細胞の表面で抗原抗体反応が起こることから始まる。この過程で肥満細胞が破壊されて化学伝達物質やサイトカインが放出され、鼻の場合には、くしゃみ、鼻汁、鼻閉の症状を引き起こす。花粉症では、鼻のみでなく、目、咽喉頭、気管・気管支、皮膚などに多彩な症状が発現する。
 この発症の過程には、アレルギー機序のほかに、神経系やホルモンなどが関わっており、遺伝、アレルギー反応に加えて、環境因子が果たす役割も大きい。

鼻汁が花粉外皮を破壊
 アレルギー反応の特徴の一つに、反応の二相性がある。すなわち、抗原が侵入して10数分後に第一相の反応が起こり、それがいったん治まった4〜8時間後に第二相の反応が起こる。鼻の場合の第二相反応は鼻閉の形で起こる。
 花粉の外皮の構造は、酸性に対しては強くアルカリ性には弱い性質がある。このため、食道を経て胃に入るとほとんど消化されないが、鼻汁とくにアレルギー性鼻炎の人の鼻汁は生理食塩水よりアルカリ性であるため、これに触れると花粉が破壊されて中の異物が放出される。
 一方、鼻粘膜の表面には、正常な状態だと繊毛が整然と並んで異物を排除する機能を果たすが、乾燥した冷気や大気汚染物質、消毒剤、防腐剤などの刺激性物質に長時間触れると損傷して脱落する。その場合には、異物は細胞間隙を通過して生体内に容易に侵入できるようになる。

林業地帯に少ない発症者
 われわれは昭和20年代以降、種々の環境の地点においてアレルギー性鼻炎に関する調査を行ってきた。調査地点を農漁村、小都市、工業都市、大都市に分けて有病率 (アレルギー性鼻炎患者数÷全対象者数×100)と対比すると、小都市、工業都市、大都市における有病率はそれぞれ農漁村の2倍、3倍、4倍、という結果を得た。しかるに、抗体保有者に対する発症者の比率(有症率)との対比では、工業都市の有症率が最も高く、次いで大都市、小都市、農漁村の順であった。
 また、大都市の中心部とそこから10数kmの距離にあるスギの林業地帯で行った住民健診の結果から、市街地では抗体保有者中に発症者が多く無症状者は少ないのにひきかえ、林業地帯では抗体を保有していても発症者は少なく無症状者が多いことが明らかになった(図1)。

飛散しない時期にも発症
 一般に、スギ・ヒノキの花粉飛散数と花粉症患者の発症数が相関することが知られているが、実際には、花粉が飛散しない時期にも花粉症の症状の出現が高頻度に認められる。われわれは、花粉症の患者さんに1月1日から治療せずに我慢して頂き症状スコアを記録した(図2)。それによると、花粉が飛散しない時期にいったん、花粉の飛散時期と同様の大きな症状が出現することが認められた。その原因は、花粉以外の、乾燥冷気やインフルエンザ、上気道炎などの影響と推察される。花粉シーズンの後半にも、やはり花粉飛散数に比例しない、何らかの影響による症状が残る。
 われわれの診断では、花粉飛散前の花粉以外の原因による発症例の大半は、乾燥性眼炎と乾燥性鼻前庭炎であり、その症状はくしゃみ、鼻汁、鼻閉、目のかゆみである。この症状を花粉症と捉える場合には、抗アレルギー薬治療が行われるであろうことは想像に難くない。しかし原因が異なるので、こうした治療は効果が得られない。乾燥冷気や感染症対策を含めた生活指導が治療の成否を分ける。

診断は原因の確認から
 花粉アレルギーの治療で、最も大切なことはアレルギーの原因を確認し、正確な診断をすることである。
 われわれの調査によると、発症している人の37%が医療機関を受診せずに放置しているが、一方、花粉の飛散時期以前の生活環境の調整、免疫療法(減感作療法)、早めに抗アレルギー薬を服用する初期治療などの組み合わせを適切に行うことにより症状を確実に抑えることができることも実証されている(図2)。特に免疫療法を組み合わせた場合には、1年後では薬を使わずにシーズンを乗り切れた患者さんは少ないが、2年目、3年目にはほとんどの方が薬を使わなくても生活に支障のない状態を維持できるようになっている。
 症状を放置せず、医療機関を受診して頂けるよう、われわれも患者さんの信頼を得られるような医療の提供に一層の努力をしなければならないと思っている。


●基調講演2:花粉症アレルギーの推移と花粉飛散

東邦大学薬学部生物学教室教授
佐橋 紀男 氏

 

 わが国の花粉症は、1961年にブタクサ花粉症が発見されたのを皮切りに、これまでにスギを含め約60種類の花粉症アレルギーが報告されている。スギ花粉症が流行する以前の1960から70年代初めには、特に千葉県などでブタクサの大繁茂があり患者の多発をみた。その後、1976年、82年にスギ花粉の大量の飛散が記録され、76から80年の5年間には16の花粉アレルギーが新たに報告された。
 現在、花粉症の主な原因となっているスギの森林面積は、東北および九州地方の各100 万haをはじめ全国合計約450万haと、ほぼ九州全土の面積に相当する。花粉飛散数の調査は各地で行われているが、神奈川県相模原市では1965年以降、36年間継続して実施している。それによると、65から82年にかけて、スギ花粉の年間飛散数が上昇傾向を示し、82年の飛散数は65年の約4倍となった。
 その後、増勢は鈍ったが、95年に突発的な過去最高を記録した。

飛散の推移に地域差
 花粉飛散数の推移状況は、地点により大きく異なる。千葉県船橋市、福岡県福岡市、兵庫県西宮市の3カ所で19年間ヒノキ科花粉の飛散数調査を行い比較した。それによると、1982年の飛散数は福岡市、船橋市、西宮市の順に多かったが、2000年には西宮市でズバ抜けて多く、他の2市はそれぞれ西宮市のほぼ3分の1にとどまった。
 スギ樹木の伐採は進む傾向にあるが、一方ヒノキの樹木は地域により現在なお増加傾向にあり、ヒノキ花粉は今後とも増加が気づかわれる。

飛散数は気温・日射量と相関
 最近、1〜2月初めにかけての花粉の飛散状況が、特に注目されている。従来、この期間には、花粉の飛散はないと思われていたが、綿密な観測の結果、微量の花粉の断続的な飛散が認められることが特にバーカード法で明らかになった。
 花粉数を調査する方法には、単位面積当たりの花粉落下数を数えるダーラム法(個/cm2/日)と、捕集機で空気を吸引して花粉を集めるバーカード法(個/m3/日)とがある。この時期には、どちらの方法によっても、測定値が1個以下の状態がほぼ1カ月間持続しており、非常に敏感な花粉症患者さんは、いつ発症しても不思議でない状態にあるといえる。
 花粉の飛散数は、短期的にも長期的にも、気温との相関が非常に大である。短期的には、気温が上昇すると、それに伴って日々の花粉飛散数も上昇する。3月初旬ごろの時期には日最高気温が15℃前後、中旬では20℃前後が危険レベルであり、それを超える日には花粉の飛散数が急激に増加することが、観測されている。一方、長期的には、前年の日最高気温の平均値、さらに日射量とも相関する。
 気温と日射量をもとにある年の年間の花粉総飛散数を予測する方法として、いくつかの方式が提案されている。最も単純なのは、前年の一定期間における日最高気温の平均値、日射量の平均値との1次相関から算出する方法で、例えば、日最高気温に関しては7月11日〜8月10日の平均値、日射量に関しては7月5日〜8月9日の平均値を使う。

今春のスギ花粉飛散量予想
 この方式に従うと、例えば船橋市における2001年の花粉総飛散数の予想値として約3000個/cm2/seasonが導き出される(図3)。

 過去の経験則に基づいて、現在では、これを修正した方式が使われることが多い。例えば、高橋らの方法により、日最高気温平均値に代えて最高気温年時差(前年の最高気温〜前々年最高気温+5℃)を、日射量平均値に代えて日射量年時差(前年日射量〜前々年日射量+10MJ)を用いる一次相関式を作成した。
 高橋方式によると、気温、日射量のいずれからも、船橋市における2001年の花粉総飛散数は2000個/cm2/season弱と、単純相関に基づく予想値をやや下回る値となる(図4)。

 スギの樹木についた花芽の状態を実地に調べると、3000個/cm2/seasonを超えそうな花芽が多数付いているが、雄花のサイズが小ぶりであり、また、2年連続の大飛散の例がないことからは、去年の7割の2300個/cm2/seasonと、単純相関に基づく予想値と同じ答が出てくる。


●内  科:花粉と喘息についての考察

国立相模原病院アレルギー・呼吸器科医長
前田 裕二 氏

 

 スギ花粉の時期に喘息が悪化する事実は従来から知られていた。しかし直径約30μの大きい花粉粒子自体が鼻腔を通過して肺の奥に入る確率は極めて小さく、スギ花粉が喘息を発症あるいは増悪させる機序はこれまで不明であった。
 われわれは、スギ花粉の記録的な大量飛散があった1995年、スギ花粉喘息と思われる症例に遭遇したことから、その発症原因の追究を開始し、スギ花粉が喘息の発症原因であることを確認するとともに、花粉の表面に付いている小粒子がその作用をすることを強く示唆する結果を得た。

スギ花粉で喘息症状が悪化
 呼吸困難と咳の症状が悪化し、近医から喘息の疑いで精密検査を依頼された52歳の女性は、22年前から2〜4月にかけて目と鼻の花粉症症状が出ていた。検査結果は、気道可逆性が+18%、気管支の過敏性を反映するアセチルコリンPC20値が8192γ/+ で、気管支の可逆的な狭窄と過敏性が証明された。また、RAST試験ではハウスダスト、ダニ、イヌのふけ、カンジダには反応せず、スギ花粉にのみ反応が認められた。この患者さんに通常の喘息の治療を行ったところ、5月には症状が消失した。
 次に、スギ花粉喘息が疑われる患者さんに、スギ花粉から抽出したエキスを用いて吸入誘発試験を実施し、ピークフローメーターを使用して気道狭窄の度合いを連続的に測定した。その結果、スギ花粉エキスを吸入して約10分後にピークフローが急激に低下し、いったん回復するものの夕刻に再度低下して、遠藤先生が話されたアレルギーの2相性反応を裏付ける症状の経過が認められた。
 スギ花粉喘息と診断された患者さん7人のうち、花粉症症状がなく喘息のみを発症した症例が1例あったが、他の6例は花粉症症状と同時ないしやや遅れて喘息を発症した。

抗原性の微小粒子が発症原因
 鼻腔を通過して肺の奥に達する微小粒子の抗原性を調べるため、花粉の捕集器内に10μと0.22μの目のフィルターを2重にセットして粉塵を2段に分けて捕集し、微小粒子と花粉の量を1日ごとに測定したところ、微小粒子の量は花粉数の実測値ときれいに比例した(図5)。

一方、スギの雄花から落下する粒子は、直径30μの花粉と1μ前後の微小粒子の2群で構成されていることが報告されており、われわれの観測結果と一致する。この微小粒子は、スギ花粉表面のオービクルと同じサイズであり、微小粒子の実体は抗原性を持ったオービクルである可能性が極めて高い。
 さらに、過去に喘息症状が認められていないスギ花粉単独感作の花粉症患者さんに、2〜4月の間毎日朝と晩に、ピークフローの測定をして頂いた。15人中2人に2〜4月の期間内でピークフロー値に15%以上の低下が認められた。その内の1例の患者さんではピークフロー値の低下パターンはスギ花粉飛散量のパターンと極めて良く一致していた(図6)。

このことは、気管支の狭窄を自覚していない人の中にも、花粉による喘息症状が起こっている例があることを意味する。
 花粉症というと、とかく鼻や目を中心とする局所的な症状だと考えられがちであるが、われわれは、気管支の狭窄などの全身症状を起こしうる疾患として捉えるべきものだと考える。


●小 児 科:花粉アレルギーを考える

国立小児病院アレルギー科
勝沼 俊雄 氏

 

 国立小児病院アレルギー科外来をある期間に受診した患者さんを年齢別に解析すると、スギ花粉症状が患者さんの年齢と密接に関連している(図7)。母集団はすでに何らかのアレルギー性疾患を持っている人であるが、0〜2歳ではスギ花粉症はほとんど認められず、幼児期では20〜30%、小学生では30〜40%、中学生以上では50〜60%程度をスギ花粉症が認められる。
 遠藤先生は、スギ花粉に感作されている人の約50%に発症すると話されたが、感作された人をアレルギー素因のある人と置き換えれば、ほぼこれに合致する。

スギ花粉症状とIgE値
 われわれはスギ花粉症とIgE値の関係について、5歳児および年長者(16歳以上)を対象に調査した。
 まず5歳児で、トータルIgE抗体の量を花粉症症状の有無で比較すると図8aの通りで花粉症症状のない児では低値であるが、症状を持つ児との間に有意差は認められなかった。だが、スギ特異的なIgE抗体値を表すCAP-RAST試験の成績では、図8bのように無症状者ではほとんどゼロであった。
 一方、16歳以上(平均年齢20歳)の場合は、これとは対照的に、トータルのIgE抗体量は花粉症症状のない人で高く、症状を持つ人では低値であった(図9a)。しかし、スギ花粉に特異的なIgE抗体のCAP-RAST試験の成績は花粉症症状の有無に関係なくほぼ同程度であった(図9b)。このことから、年少児でスギ特異IgE抗体が陽性の場合は花粉症症状を呈しやすいといえる。一方、年長から成人では、花粉症患者においてむしろ総IgE値は低かった。さらにスギ花粉IgE抗体価が陽性であっても、必ずしも症状を呈さない、といえよう。
 
 
抗原の回避が治療の基本
 次に、スギ花粉症アレルギーの治療薬の現状と近い将来の展望に触れたい。
 現在、スギ花粉症の治療に広く用いられている薬剤は、抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬とステロイド点鼻薬が主である。抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬は、マスト細胞の表面で花粉抗原とIgE抗体による抗原抗体反応が起こったとき、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質がマスト細胞から遊離して出てくる局面に作用して、それらをブロックすることを目的とした薬剤である。一方、ステロイド薬は、症状を引き起こすメカニズム全体に作用する薬剤である。
 これに対し、現在開発が進められている薬剤は、花粉症の発症過程を川の流れに例えると、下流ではなく、もっと上流に作用する薬剤、例えばIgE抗体の産生を抑制するなどの作用を持つものであり、何年か後には、現在の治療概念とは全く異なる治療法が開発される期待が大きい。
 ただし、その場合にも、抗原の侵入によって一連のアレルギー反応が起こるのであるから、まず抗原を減らすことが治療に不可欠である。花粉情報等を参考にして外出のタイミングを考え、抗原への曝露や家への持ち込み量を減らす工夫、さらに喘息などではダニなどの抗原に触れない対策も重要である。


●皮 膚 科:スギ花粉とアトピー性皮膚炎

横浜市立大学附属病院皮膚科講師
相原 道子 氏

 

 スギ花粉が実際にアトピー性皮膚炎を悪化させるかどうかについて、横浜市立大学附属病院皮膚科を受診したアトピー性皮膚炎の患者さん97人 (男性44人、女性53人、平均年齢26歳) を対象に調査した。まず、スギ花粉の飛散時期にアトピー性皮膚炎が悪化するかどうかをアンケートで尋ねたところ、「悪化あり」が47人(48.5%)、「悪化なし」が50人(51.5%)と、ほぼ同数であった。
 また、花粉症を持っている人は、「悪化あり」の群では85%と極端に高く、一方、「悪化なし」の群では44%と、一般のアトピー素因保有者とほぼ同レベルの比率であった。

スギ花粉によるアトピーの悪化
 スギ花粉がアトピー性皮膚炎を悪化させるメカニズムは、次のように考えられる。皮膚は図10のように、外側から表皮、真皮、皮下脂肪で構成されており、健康な皮膚は表皮がきれいな層状をなしている。これに対し、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、表皮の細胞と細胞の間を埋めているセラミド(セメント状の物質)が不十分で表皮が障害された状態になっている。このため、表皮の表面にスギ花粉が付着した場合に、花粉全体は大きすぎて侵入することは不可能であるが、表面に存在する抗原性を持ったたんぱく質が、障害された表皮のすき間から侵入することができ、それが炎症反応を引き起こす。
 実際に、われわれがアトピー性皮膚炎の患者さんにスギ花粉エキスを用いて皮膚のスクラッチテスト・パッチテストを行ったところ、スギ花粉の飛散時期にアトピー性皮膚炎が悪化すると答えた群では、3人のうち2人と、陽性率が高い結果が得られた。
 また、スギ花粉の時期にアトピー性皮膚炎が悪化する患者さんの皮膚からリンパ球を採取し、これにスギ花粉成分を加えて培養すると著しい増殖反応を示すことが報告されている。アトピー性皮膚炎がなく、例えば鼻炎だけの症例では、このようなスギ花粉成分によって起こるリンパ球の増殖反応は認められない。

接触アレルギーが関与
 以上のことから、スギ花粉の飛散時期にアトピー性皮膚炎の悪化が認められる患者さんの場合には、症状を悪化させる原因として通常の花粉症発症のメカニズムのほかに、花粉に対する接触アレルギーが示唆される。
 アトピー性皮膚炎を発症させる因子は非常に多様であるから、花粉飛散時期に悪化するといっても必ずしもスギ花粉が原因とは限らず、そのほかにも次のようなさまざまな悪化要因の関与が考えられている。

  1. 気候の変化による季節的増悪―アトピー性皮膚炎の患者さんは皮膚バリアが障害されているため特に影響を受けやすい。
  2. 社会的環境の変化による精神的ストレスの関与した増悪―受験、進学、就職、転勤など。
  3. シャンプーやリンスの使用頻度の増加による増悪―頚や顔に化学成分が残留して皮膚炎を悪化させる。

 また、スギ花粉以外に、カモガヤ花粉などによってアトピー性皮膚炎が悪化することも報告されている。


●眼  科:アレルギー性結膜疾患と花粉症

東京女子医科大学医学部眼科助教授
高村 悦子 氏

 

主訴はかゆみ・充血
 +゚型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で患者さんが多いのは、アレルギー性結膜炎と春季カタルである。前者には季節性と通年性があり、季節性の代表的な疾患が花粉症である。
 症状は、かゆみと充血が2大主訴であり、次いでめやに、流涙が多く、春季カタルの場合は角膜の障害による異物感や眼痛を伴いやすい。季節性では、くしゃみ、鼻汁、鼻閉と鼻の症状が多発する。他覚所見には、まぶたのうらの充血、白目の充血やむくみなどがある。
 眼の充血は血管の拡張によって起こる(図11)が、同様の症状はアレルギー以外の原因によっても起こるので、めやにを採取し好酸球の検査により診断する。春季カタルはアレルギーによって起こる重症型の角結膜炎であり、石垣状の乳頭増殖、角膜輪部の堤防状隆起、角膜のびらん・潰瘍など著明な病変(図12)と痛みを伴うことが多い。
 

アレルギー性結膜炎の治療
 花粉症の場合の結膜炎の治療の基本は花粉の回避である。ゴーグルによる予防、好天・強風時には外出を控える、衣類などに付着した花粉を屋内に持ち込まない、などの対策が必要である。
 治療薬には、抗アレルギー点眼薬、防腐剤無添加人工涙液、ステロイド点眼薬がある。抗アレルギー点眼薬では、化学伝達物質遊離抑制薬が6種類あるが効果は大差ないと思われる。そのほかに抗ヒスタミン作用を持つ抗アレルギー点眼薬が2種類、今年初めて市場に出たものが一つである。従来の抗ヒスタミン薬は点眼薬への製剤化がむずかしく有効性の高い濃度の点眼薬ができなかったが、新製品は安全性が高く、効果の期待できる濃度であり、かゆみ止め、充血止めとして実地の治療に役立つと考えられる。

季節前治療が効果
 眼科領域においても、耳鼻咽喉科領域と同様に、季節性アレルギー性結膜炎に対し花粉の飛散開始前に抗アレルギー点眼薬の使用を開始することにより、花粉飛散期の症状を軽減することができるというデータが得られている。実際、この方法により症状の軽減を実感した患者さんも多く、抗アレルギー点眼薬による初期療法が治療の場に定着しつつある。
 症状が強い場合には抗アレルギー点眼薬では効果の限界があり、人工涙液を使用して眼に入った花粉を洗い流す方法やステロイド点眼液が併用される。人工涙液では防腐剤無添加のものが安全性が高く推奨される。これには5+ の通常の点眼容器入りのもののほか、1回ごとの使い捨て容器入りがある。
 重症型結膜炎に対しては、ステロイド点眼薬が使用されるが、ステロイド点眼薬には眼圧上昇の副作用があるので、眼圧のチェックなど定期的な検査が不可欠である。


●パネルディスカッション

「花粉症を含むアレルギー疾患について患者さんからの質問に答えて」

司会 伊藤幸治氏((財)日本アレルギー協会関東支部長/同愛記念病院特別顧問)


 


アレルギー性鼻炎は手術で治るか
質問 アレルギー性鼻炎は手術やレーザー治療でよくなりますか。
遠藤 鼻の粘膜を生理的な状態に回復することは手術で可能ですが、アレルギー反応を起こすメカニズムを手術で元に戻すことは、残念ながらできません。そこで、手術をすることによって生理的な状態に回復したとして、その効果がいつまで持続するかが問題となりますが、症状の程度は手術の効果だけでなく、花粉の飛散数によっても左右されるので、はっきりしにくいです。手術によって永久的な症状の寛解は望めない、と理解して頂いたほうがいいと、私は思います。

減感作療法の有効率
質問 花粉症に対する減感作療法の効果および完治率はどの程度ですか。
遠藤 アレルギー性鼻炎の患者さんに減感作療法を行って、全く効果が現れない方はまずおられません。減感作療法を開始して1年目から薬剤の使用を中止できた方もかなりおられ、3シーズン続けた場合には、史上最高の花粉飛散数を記録した平成7年でも、65%の方が薬剤を全然使用せずにシーズンを乗り切ることができました。ですから、薬を飲まないですむことを目標にするならば、目標達成率は65%となりますが、通院しないで済むことを目標とする場合には、達成はなかなか難しいと言わざるをえません。
 一方、減感作療法がうまくいっている方で、その方の都合で中止した場合に、その効果が10年間ぐらい持続する例もあれば、3〜4年のこともあるのですが、たとえ3〜4年で症状が再発したときでも、例えば数カ月間程度の短期間、追加の減感作療法を行うことで効果を取り戻せることが分かっています。完治率までは出していませんが、薬を飲まなくても日常生活に支障がない状態を完治とするなら、私どもは60%以上と考えています。
質問 減感作療法を希望しても、してくれる医療施設が少ないのですが、どこで分かりますか。
遠藤 たしかにその通りで、私どもの調査でも耳鼻咽喉科の全医療施設の30%に満たないのが実情です。日本アレルギー協会では、日本アレルギー学会認定医、専門医、指導医の名簿を作り、減感作療法を行っているかどうかも分かっていますから、そちらへお問い合わせになれば情報を得られると思います。

鼻腔内洗浄の効果と弊害
質問 花粉症に対して、鼻の洗浄は発症の予防あるいは悪化の防止に効果があるでしょうか。
遠藤 どこへ行っても鼻の洗浄について質問を受けますが、鼻腔内に刺激性の物が入ると、すべての場合に粘膜が損傷して異物が容易に粘膜を透過するようになります。蒸留水でも、大量に鼻に還流した後には、異物が粘膜の細胞間隙から中へと透過することが、すでに確かめられています。ですから、もし鼻洗浄をなさる場合には、生理食塩水を33℃ぐらいに温めて使うと、刺激が少なく、高村先生も話されたように花粉を洗い流す効果もあると考えます。

眼科の抗アレルギー薬の選択
質問 点鼻薬を多用した場合にどんな副作用がありますか。
遠藤 薬剤の種類によって大きく異なります。まず、抗アレルギー薬の場合は、内服薬に比べ、点鼻薬は5分の1ないし10分の1の用量で同じ効果をあげることができます。眠気の副作用がある抗ヒスタミン薬でも、点鼻薬だと眠気の副作用を5分の1、10分の1に減らすことができます。
 次に、鼻閉に対して使用する血管収縮薬の場合には、使用しているうちに次第に効果が低下し、その先に点鼻薬性鼻炎という、薬剤の使用を中止しないかぎり鼻閉が元に戻らなくなる副作用があります。このため、連用や多用は厳に慎むべきであり、使用限界はほぼ1週間と考えます。
 ステロイド薬の場合も、抗アレルギー薬と同様で、筋肉注射や内服に比べ点鼻薬のほうがはるかに少量で同じ効果を上げることができます。当然のことながら副作用が少ないのでステロイドを使う場合には、必ず点鼻薬から入って頂くべきだと考えています。

漢方薬・民間療法の効果は
質問 漢方薬や民間療法、健康食品は花粉症に効果がありますか。
遠藤 漢方薬はどれでもよいわけではなく、薬理作用が臨床的にある程度確認されているものがあり、それであれば効果があると考えて頂いてよろしいです。
 次に民間療法については、残念ながら学問的には効果が実証されたものはないと、私は解釈しています。また、かつて旧科学技術庁のスギ花粉症克服に向けた総合研究のなかで、健康食品の効果について確認する研究が行われましたが、期待した効果が得られず、現在の医療上の治療を上回る効果は将来とも望めないだろうと考えられて、いまは研究対象から外れています。

花粉症は遺伝するか
質問 花粉症は遺伝するのですか。
遠藤 ヒトの遺伝子のなかに、スギに対する特異IgE抗体の抗体産生抑制遺伝子が存在し、これは単純性劣性遺伝で子孫に伝えられるという、立派な研究があります。それによると、花粉症を起こす可能性のない人が日本人では5人に1人の割でおり、その体質は単純性劣性遺伝で伝わることが分かっています。疫学的な調査でも、1家族内にアレルギー性疾患をだれも発症していない家族ではアレルギーの発症が起こる確率は極めて小さいことから、アレルギー性疾患に関しては家族集積性があることは間違いありません。ただ問題は、残りの7〜8割の方たちに関して、発症の機序がすべて遺伝で規定されているかどうかは、議論のあるところです。
勝沼 現在、遺伝に関してはDNAレベルでの解析が精力的に行われています。しかしアレルギー性疾患の発症、悪化には、どんな抗原曝露を受けて育ったかが大きく関与しています。遺伝だけでなく、環境要因を考えていくことも大事だと思います。



新着情報 患者さん・一般の皆様へ 医療従事者向け 会員向け リンク 患者会情報 アーカイブ サイトマップ

Japan Allergy Foundation.
財団法人日本アレルギー協会ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。
すべての著作権は財団法人日本アレルギー協会に帰属します。

お問い合わせはこちらまでお願いします。